『争うは本意ならねど』

最近,スポーツ法をかじっていて,この本に出会いましたのでご紹介します。
『争うは本意ならねど』(木村元彦さん著,集英社)です。

あまりサッカー詳しくないのですが,我那覇選手は沖縄県出身者で初のJリーガーで,39歳になった2019シーズンでもJ3のカスタマーレ讃岐で背番号9を付けて現役で活躍中ですね。
我那覇選手が被ったドーピング違反という冤罪は,信じられない展開でした。

ずさんな事実認定

我那覇選手は,2007年4月20日から体調不良で,チームドクターから感冒と下痢と診断されました。我那覇選手は水も飲めない状態でした。その治療のため、23日にはチームドクターからビタミンB1を含む生理食塩水の投与を受けています。これは世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の2007年の規程に照らしてまったく問題のない医療行為です。
体調不良であったその数日間も我那覇選手は無理をおして練習に出ています。

ところが,翌24日,スポーツ新聞に,我那覇選手がニンニク注射を受けたという記事が載ってしまいます。書いた記者はろくに取材もしていなかったようで,まったくの誤報でした。そもそも我那覇選手が受けたのはビタミンB1を含む生理食塩水ですからね。ニンニク注射が事実であれば,ドーピング違反となります。

追い打ちをかけるように,25日,我那覇選手のチームが本人に事実確認もせず,報道を肯定してしまいます。選手を守らないのかと,読んでて頭きました。

さらに,Jリーグもヒドいもんでした。
先の誤報を前提にしたJリーグドーピングコントロール委員会(DC委員会)の事実誤認に基づいた事情聴取を行っています。また,処分が出ていないのに,当時の日本サッカー協会会長がドーピング違反という結論を前提にしたコメントを発表したりもしています。
WADAのよく規程を読んで,丁寧にチームドクターや選手から事情を聴けば,すぐに誤報と分かると思うんですけど。

手続保障がなってない

ドーピング違反を審理,処分する当時のJリーグの体制も,法律家から見ればなっとらん,という感想です。
それは,手続保障がなってないからです。

手続保障

手続保障とは,手続の過程を通じて当事者の意思が尊重されていること,また,当事者双方に公平に攻撃防御をする機会が与えられていること,を意味します。
法律の世界ではもっとも重要な考え方の1つです。

反論の機会なし

我那覇選手には,5月7日,Jリーグアンチ・ドーピング特別委員会が最終処分を行い,我那覇選手のドーピング違反を認定しています。
ところが,我那覇選手にはその日に処分を行うことを知らされず,何ら反論をする機会が与えられなかったのです。
事実を本人に確かめてもいないのにです。

同一機関が処分

これにはカラクリがありました。処分を出したJリーグアンチ・ドーピング特別委員会とDC委員会は,構成メンバーが同じだったのです。
違反だと主張するDC委員会と,処分を下す機関が実質的に同一だったのです。これでは警察検察が捕まえた犯人を処罰までするようなものです。
本来であれば,DC委員会から独立した機関による事実の認定や処分が行われるべきです。

スポーツ仲裁裁判所(CAS)で勝訴

納得がいかないのは選手だけでなく,チームドクターもそうでした。選手のために行った正当な医療行為がドーピング違反とされてしまったから当然でしょう。
我那覇選手の所属していたクラブのチームドクターらが中心となって,Jリーグの全チームドクターがJリーグに質問状を出すという事態になります。

間違った前例が残ると今後の全てのスポーツ選手が適切な点滴治療を受ける際に常にドーピング違反に跡で問われるかもしれないという恐怖にさらされます。

チームドクターがこんな熱い思いで我那覇選手を支えます。

日本アンチ・ドーピング機構(JADA)も世界ドーピング防止機構(WADA)も,我那覇選手はドーピング違反ではないと発表,それでもJリーグはかたくなに誤りを認めようとしませんでした。

我那覇選手は,スポーツ仲裁裁判所(CAS)への提訴を決断します。

納得できないままでモヤモヤしていた。この場で言わないと,一生後悔すると思った

CASは,スポーツ界の国際的な最高裁判所と位置付けられています。
英語かフランス語での仲裁のため,提出する書面や証拠を翻訳し,また仲裁の場では通訳も必要になります。
我那覇選手の手続においても,2230万円もの実費がかかったそうです。

CASの手続の場面でも我那覇選手はモヤモヤさせられています。

すべての裁判がそうであるように,被疑者に対して相手の代理人が投げかけてくる尋問は屈辱的なものである。
「練習はできたのだから,実は熱があったとか脱水症状だったというのも嘘ではないか?」「本当は水を飲めたのではないか」

ぶっちゃけ
実際の裁判でも,センスの悪いこと聞く人多いんだよね。

こんなことを聞かれても,我那覇選手は悔しさに耐えながら,毅然と回答をしていたそうです。男の中の男です!

そして,ついにCASで我那覇選手が勝訴したのです。

まとめ

本書では,チームドクターの熱い思いや行動が詳細に描写されています。
そのほかにも,CASの裁判費用のため,Jリーグの選手たちが募金活動をしたり,地元沖縄でも「ちんすこう募金」に奔走する方々の思いに感動させられます。

おすすめ度 ★★★★☆

 

最新情報をチェックしよう!